工場の稼働率向上に潜む落とし穴と、真の改善策とは?
IoTの普及により、製造業ではデータ収集が盛んに行われ、工場の効率化が加速しています。多くの工場では、まず機械の稼働率に注目し、その向上を目指すことが一般的ですが、実は稼働率そのものを目的とすることにはいくつかの問題が潜んでいます。本記事では、稼働率向上の問題点と、真に注目すべき「停止時間の削減」に焦点を当て、現場改善の新たな視点をご提案します。
1. 機械の稼働率向上を目的とするリスク
IoTを導入する多くの工場では、まず機械の稼働データの収集から始めることが一般的です。稼働状況の把握により、思っていたよりも稼働率が低いことに気づくことが少なくありません。その結果、稼働率の向上が第一目標とされ、管理者は現場に「稼働率を上げるように」と働きかけるようになります。しかし、稼働率の向上を目指すこと自体が目的化してしまうと、製造現場で逆効果を招くリスクがあるのです。
2. 稼働率の適切な目標設定が難しい理由
機械稼働率の向上を目指す際には、適切な目標値の設定が大変難しいという問題に直面します。特に少量多品種生産を行う工場では、製品の種類や機械の特性により、稼働率の変動が大きく影響を受けます。
例えば、生産ロットが大きい場合は段取り回数が少なく済むため、稼働率を高く維持しやすくなります。一方で、1点ものの生産や初物の加工には準備時間がかかるため、稼働率を高めるのは容易ではありません。また、工場の生産計画により、特定の機械を稼働させない時間帯があることも稼働率に影響を与えます。このように、稼働率は機械の種類や製品によって大きく異なり、すべてに共通する目標値の設定が難しいことが分かります。
このため、ある工場では「可動率(べきどうりつ)」という概念が導入され、稼働すべき時間に対する実際の稼働時間の割合を算出する試みもありますが、異なる製品や機械が多く稼働する工場において、逐一「本来稼働すべき時間」を正確に把握することは容易ではありません。
3. 停止時間に注目した改善の重要性
適切な稼働率目標を設定することが難しいため、稼働率向上自体が目的化してしまいがちです。その結果、現場での不公平感が生まれたり、稼働率を上げるために無理を強いられる場合も出てきます。例えば、暖機運転を長く行ったり、加工スピードを意図的に遅くしたりして稼働率を「見せかけ上」上げるといった行為が発生するリスクも考えられます。
そのため、真に注目すべきは「停止時間の削減」です。稼働率向上を直接目指すのではなく、稼働を妨げる要因を特定し、停止時間を少しずつ減らしていくことこそが、結果的に稼働率を高め、工場全体の生産性向上に寄与します。
まとめ:稼働率向上の鍵は停止時間の削減にあり
稼働率を無理に高めることは、必ずしも効率化に繋がるわけではありません。適切な目標設定が難しいことや、製品や機械による稼働率の違いにより、稼働率を直接改善することには限界があります。そこで、まずは停止時間に目を向け、停止要因を洗い出して改善していくことが効果的です。停止時間の削減に取り組むことで、最終的には稼働率の自然な向上が見込まれ、工場の持続的な成長と効率化に繋がるでしょう。